【視点】子ども守るシステム機能せず

 これを受け、心愛さんは児童相談所に保護されたが、勇一郎被告は心愛さんが書いた「お父さんにたたかれたというのはうそです」という書面を示すなどし、約1カ月半で保護は解除されてしまう。心愛さんは相談所の職員に書面を無理やり書かされたと訴えたが、聞き入れられることはなかった。
 再び被告と同居するようになった後も、祖父母に泣きながら電話し「家にいたくない」と訴えたという。
 野田市教育委員会は18年1月15日、勇一郎被告の要求に応じ、心愛さんのアンケート回答のコピーを渡してしまう。それが虐待をエスカレートさせる一因になったのか、9日後の24日、心愛さんは長時間、自宅のシャワーで冷水を浴びせ続けられるなどして死亡した。
 本来、子どもを守るために存在するはずの教育委員会や児童相談所は何をしていたのか。千葉地裁の判決では「児童を守る社会的システムが機能しなかった」と処断した。
 どれだけ優秀なシステムを完備していても、それを動かす人間が問題意識に欠け、事なかれ主義に堕してしまうと、いざという時に無用の長物でしかないことを示している。児童虐待問題に限らず、こうした官僚的な空気が日本社会全体に蔓延しているのではないかと危ぶむ。
 周囲の大人が常にアンテナを張り、危険を感じたら即、子どもを救うために行動する。子どもに関わる行政機関は今一度、この原則に立ち返らなくてはならない。現状維持が仕事になってしまうと、その組織も個人も滅ぶ。この事件が残した重大な教訓だ。

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