【視点】変幻自在な米政権外交

 6月12日に米朝首脳会談を控えたトランプ米大統領は5月24日、北朝鮮側の敵対的な姿勢を理由に中止を発表し、関係各国に衝撃を与えた。しかし北朝鮮側が態度を軟化させたことを受け、25日には予定通り会談を行う可能性に言及した。大企業トップとして数々の商談を成立させてきた経験を生かした変幻自在な外交に、世界が翻弄されている。

 「私の取り引きのやり方は単純明快だ。狙いを高く定め、押して押して押しまくる」「取り引きをうまく行う能力は生まれつきのものだと思う。一番大事なのはカンだ」―。トランプ氏が自らの信念を明かした主著のタイトルは「アート・オブ・ディール」(取り引きの技術、邦題はトランプ自伝)。自他ともに認める交渉の達人であり、最大の利潤を追求する民間経営の感覚が、最大の国益を追求する外交に生かされていると見ることもできる。トランプ氏自身が就任演説で「アメリカ・ファースト」(米国第一主義)と連呼した通りである。

 職業的外交官や、前例にとらわれがちな政治家が外交を主導する国では考えにくい事態だ。さらに特異なのは、それが米国という世界唯一の超大国の外交であることだ。

 単なる外交ではなく、強大な軍事力と経済力を背景に、相手国に対し、圧倒的な優位に立った上で交渉を展開している。日本など他国には容易に真似できない。

 「トランプ流」は北朝鮮外交だけにとどまらない。対中国では集中的な貿易協議を行い、米国の対中赤字削減の要求を一定程度のませた。自動車に追加関税を課す輸入制限策の検討も指示し、日本も厳しい交渉を迫られそうだ。

 イランに対しては、イランと米欧など6カ国が結んだ核合意からの離脱表明に続き、イランの核放棄に向けた「史上最強」の制裁を続ける方針を表明。在イスラエル米大使館のエルサレム移転も実行した。これらの外交は激しい賛否両論を巻き起こしているものの、少なくとも事なかれ主義や、優柔不断の指導者には到底実現できないものだ。微温的な外交に終始し、結果的に北朝鮮危機を増幅させたオバマ前政権とは対照的である。

 トランプ氏は、少なくとも現時点では、北朝鮮の徹底した非核化を追求するという当初の姿勢からいささかもぶれていない。

 平和は力の裏付けを伴った行動によって初めて実現する。実際に力を行使するかは別問題として、相手国を究極まで追い込むトランプ氏の外交姿勢は、それなりに首尾一貫している。

 日本では米朝首脳会談に期待する声が多いが、悪行の限りを尽くしてきた北朝鮮の「善意」を信じるわけにはいかない。日本としては、米政権が核問題や拉致問題で妥協しない姿勢で臨むことに期待するほかない。日本自身も、北朝鮮の明確な譲歩なしに、圧力の最大化という従来路線の変更はできない。

 米国は、日本にとって対北朝鮮で不可欠な連携相手だが、貿易分野では逆に手ごわい競争相手となる。前例にとらわれない大胆な発想で臨まなければ、企業経営感覚の米大統領とは渡り合えない。

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