【日報の本棚】横浜市が「つくる会」系を選んだ理由 今田忠彦著

 「自国の歴史や文化・伝統の素晴らしさを教えないで、どうして誇りや愛着が生まれるのだろうか」―。著者は神奈川県横浜市の元教育委員長。“自虐史観”色が強いとされる従来の歴史、公民教科書に対し、育鵬社、自由社の教科書採択に立ち上がった。教職員組合や市民団体との論争の中で誹謗中傷に耐えた当事者が、歴史の証言者として「闇」に迫った一冊。
 横浜市は2009年度に自由社の歴史、11年、15年に育鵬社の歴史、公民教科書を採択した。これらの教科書を強力に推したのが著者だった。
 その過程で激しい不採択運動に直面。抗議文書が殺到し、共産党議員団が押しかけ、朝日新聞の社説で名指しで批判された。
 著者は教科書採択を巡る騒動について「今日の日本社会が抱えるさまざまな課題や、外交問題への取り組みにまで影響を与え、多くの人たちの心に鬱積(うっせき)している不満とも強く結びついているのではないか」と指摘する。
 同書では4回の採択の内幕を紹介するとともに「正しい歴史を教えられていない若者、知らない若者は、自らのルーツを知らない者として、国際社会では評価も尊敬もされず、さまざまな国際標準規格を決めるときの人脈からも外されてしまう」と歴史教育の大切さを力説する。
 横浜市教委に対する激しい抗議運動は、沖縄で2011年に起こった「八重山教科書問題」を彷彿(ほうふつ)とさせる。政治家やメディアを巻き込み、自由社や育鵬社の教科書不採択を求める不当な圧力が公然化している現状は沖縄も変わらない。信念を持って戦う著者の姿が共感を誘う。
 産経新聞出版刊。263ページ。定価1500円+税。

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