【国境を撮る④】角栄に見た「弱者への情愛」 留学の挫折バネに追う

 小学館では『女性セブン』や『週刊ポスト』に携わっていて、勤めていた14年間は楽しいものだったよ。でも、会社だから「出世争い」とかもあってね。「そんなもんに関わっていられるか」と思って、退職を決めたんだ。
 何とか1年間食っていけるだけの退職金があった。どうせなら何か一つのことを追っかけてみたい、誰もやっていないことをやりたいと思った。
 当時、田中角栄の写真は誰も撮れなかった。ロッキード事件で追われていたからね。
 当初は「半年ぐらい挑戦してみて、それでダメならそれまでだ」って覚悟して追いかけ始めたんだけど、ふたを開けたら3年間も追っかけてた(笑)。それをまとめてできたのが、写真集『田中角栄全記録』だった。
 写真だけでなく、角さんから学んだものは多かった。人間には誰しも長所と短所、光と影がある。喜びもあれば、悲しみもあり、善意もあれば、時に悪意もある。強い気持ちがあれば、弱音を吐くこともあり、愛情を注ぐこともあれば、憎悪を剥き出しにすることもある。その全てを見て判断しなければならない。弱者への深い情愛も、金権政治も、全て角栄という人間の内部にある。そういうことを学んだよ。
(敬称略、聞き手・里永雄一朗)

[プロフィール]
 山本皓一(やまもと・こういち) 1943年、香川県生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒。雑誌の写真記者を経て、フリーランスのフォト・ジャーナリストに転身。独裁国家の北朝鮮、崩壊直前のソ連、日本の国境の島々を踏破するなど、世界各国をルポルタージュしてきた。日本写真家協会とペンクラブの会員。

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