【視点】国益第一主義の現実示した
米軍は1月3日、南米ベネズエラを攻撃し、マドゥロ大統領と妻を拘束、麻薬密輸への関与を理由として米ニューヨークに連行した。「アメリカ・ファースト(米国第一主義)」を掲げる米トランプ政権が、まさに国益を貫徹するために行った軍事行動で、国際社会が国益第一主義で動いている現実をまざまざと示した。
トランプ政権はマドゥロ政権が米国への麻薬密輸に関与したと指摘。米軍が密輸船を直接攻撃するなど、ベネズエラへの軍事的圧力を徐々に強めていた。
昨年12月には合成麻薬フェンタニルを「大量破壊兵器」に指定するなど、麻薬対策の本気度は高い。トランプ氏はフェンタニルで年間20~30万人の米国民が死亡していると主張する。
今回の攻撃のもう一つの背景には、中国のベネズエラ浸透だ。ベネズエラは豊富な石油資源の存在で知られているが、輸出の8割は中国向けとされる。
ベネズエラは中国が進める巨大経済圏構想「一帯一路」にも協力し、中国からの投資も積極的に受け入れてきた。攻撃の直前にも中国の特使が首都カラカスでマドゥロ氏と会談するなど、中国とベネズエラは蜜月関係にあった。
南米は米国の「裏庭」とも言われる。トランプ政権が南米での中国の影響力拡大を嫌ったのは想像に難くない。
さらにベネズエラ攻撃を決定的に後押ししたと考えられるのが、マドゥロ政権の合法性や正当性への疑問だ。
マドゥロ政権は独裁的な姿勢を強めており、2024年の大統領選では選挙プロセスが不透明なままマドゥロ氏が一方的に勝利宣言した。
民主主義諸国はマドゥロ政権が発表した選挙結果を認めていない。ベネズエラから脱出した野党指導者マチャド氏はマドゥロ政権に抵抗する姿勢を評価され、ノーベル平和賞を受賞している。
高市早苗首相もX(旧ツイッター)で「日本政府として、これまでも、一刻も早くベネズエラにおける民主主義が回復されることの重要性を訴えてきました」と投稿した。トランプ氏には、独裁政権の打倒であれば国際社会の賛同も得やすいという判断もあっただろう。
トランプ大統領は記者会見で、米国の企業がベネズエラの石油権益に参入すると説明した。米国がベネズエラを「運営」するとも述べたが、当面はマドゥロ政権のロドリゲス副大統領を米国の意向に従わせる方針のようで、実利優先が顕著だ。
ベネズエラ攻撃に対しては中国、ロシア、北朝鮮が非難声明を出した。日本でも立憲民主党の野田佳彦代表が「国際法や国際憲章に照らして正当性があるか疑問だ」と批判した。
とはいえ国連安保理の常任理事国である中国やロシア自らが、国際法を堂々と踏みにじって恥じないのが国際社会の現実だ。国際社会は国益同士のぶつかり合いであり、国際法さえも現実には国益達成の手段であることを認識する必要がある。
米国の行動がロシアのウクライナ侵攻や、中国の台湾侵攻を正当化する口実に使われるとの懸念の声がある。だが中ロこそ、どのような大義名分を立てても国益を露骨に追及する国であり、自らの侵略の口実に米国のベネズエラ攻撃など必要としないだろう。
むしろ米国の軍事行動に背筋の寒い思いをしているのが中国、ロシア、北朝鮮ではないか。国際法の順守をいくら訴えても中ロの侵略行為を止めるのは困難だが、トランプ政権の有言実行が抑止力となる可能性は高い。