【視点】知事、分断ではなく融和導く使命

 「慰霊の日」の23日、県は恒例の沖縄全戦没者追悼式が平和祈念公園を開き、玉城デニー知事が「平和宣言」を読み上げた。前年に続き、今年も米軍普天間飛行場の辺野古移設に触れたものの、明確に反対する文言は盛り込まなかった。政府との対決色が鮮明だった前年までとは一線を画した形だ。
 追悼式は、政治的なメッセージを発信する場ではない。この場で辺野古に触れること自体が不適切だが、知事が前年に比べ穏当な表現にとどめ、いたずらに対立を煽らなかった姿勢は一応評価できる。
 来年以降の追悼式では、辺野古への言及そのものをやめるべきだ。県民が心を一つに恒久平和を祈念するという追悼式本来のあり方に戻してほしい。
 平和宣言で知事が辺野古移設反対を訴えるようになったのは、翁長雄志前知事からである。翁長氏は自らが出席した3回の追悼式で「辺野古に新たな基地を造らせないため、今後も県民と一体となって不退転の決意で取り組む」(2017年)などと述べ、移設反対を強くアピールした。これに呼応するように、会場からは拍手が沸き起こった。
 安倍晋三首相は昨年まで毎年、式典に出席し、基地負担軽減への決意を述べていたが、知事への拍手とは裏腹に、会場からやじや罵声が飛ぶのが常だった。
 これでは追悼式ではなく、まるで政治集会だ。しかも安倍首相はゲストであり、県民自らが招待しておいて侮辱を加えるのは「おもてなしの心」にそぐわず、沖縄の体面を汚すものだ。全国の注目を集める追悼式を政治利用し、県民の分断を深めた翁長前知事の責任は重い。
 今年は新型コロナウイルスの影響で追悼式の規模が縮小され、参列は関係者のみに限定された。招待を見送られた首相はビデオメッセージを寄せた。ある意味皮肉な現象ではあるが、追悼式にふさわしい静謐(せいひつ)な環境がようやく確保されたとも言える。
 玉城知事は「辺野古で進む新基地建設の場所は、ウチナーンチュのかけがえのない財産。次世代に残すため、責任を持って考えることが重要」と述べた。追悼式後、報道陣の取材に応じ、辺野古移設反対を明言しなかったことについて「辺野古新基地建設に反対する気持ちは全く変わらない」と述べた。
 玉城知事が辺野古移設に反対していることは周知の事実であり、今後ともアピールする機会は何度でもあるのだから、改めて平和宣言で繰り返す必要は全くない。知事は今回の平和宣言を第一歩として「デニー色」を発揮し、イデオロギーにとらわれない中庸の姿勢で、分断ではなく融和の方向へ県民を導いてほしい。
 沖縄の基地負担軽減は、全国民共通の課題として考えなくてはならない。知事が毎年、平和宣言でこの問題を全国に訴え、首相もあいさつで同じ決意を述べているは当然である。
 だが平和宣言で、不穏さを増す沖縄周辺の国際情勢にも触れ、軍事力増強を進める中国へ自制を促す文言が盛り込まれれば、なおよかった。恒久平和の実現に向けて、よりリアリティが増し、説得力がある内容になっただろう。

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